AIの実践

AI・人工知能は仕事を「奪う」のか?イノベーションが生む変化の功罪

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要はこんな話

  • AI・人工知能技術の発達に対し、「人工知能は多くの人間の仕事を奪う」とする悲観論と、「人工知能のおかげで人間本来の仕事に集中できる」とする楽観論が共存している。
  • オックスフォード大学准教授の研究によると、人工知能に奪われうる仕事は、職種全体の約半分程度。
  • 日本のオフィスワーカーの60%弱が、「労働の代替が楽しみ」との所感。
  • 極端な楽観論でも悲観論でもなく、現実的に人工知能と付き合っていくための挑戦を行う、今後のスタートアップの動きに注目したい。

ここ数年話題のAI・人工知能の概略

AI、あるいは人工知能という言葉は、この数年で、私達の日常に随分と受け入れられるようになりました。今や、新聞や雑誌、インターネットメディア上で、AIや人工知能というキーワードを見かけない日は無いくらいです。

ですが、情報の伝えられ方や、受け入れられ方は、人によって様々に異なっています。AI・人工知能(以下、人工知能)を、より豊かな生活を人間にもたらしてくれる救世主とみる向きもあれば、反対に、人工知能が近い将来人間を滅ぼすと唱える論者も少なくないのが現状です。

こうした楽観視と悲観視が入り乱れる状況の中でも、特に盛んに議論がなされているテーマの一つが、「人工知能は人間の仕事を奪ってしまうのか?」というテーマです。人工知能研究者やデータサイエンティスト、あるいは人工知能を用いたビジネスを仕掛ける事業家など、ごく一部の人々を除く大多数の人達にとってみれば、人工知能が自分の生活にどこまでの影響を与えるのか、とりわけ仕事がなくなってしまうような最悪の事態は訪れるのか、といったことこそ、人工知能に関して一番気になる話なのかも知れません。

そこで、本稿では、「人工知能による仕事の代替」というテーマについて、悲観論と楽観論(※1)の両方を取り上げた上で、人工知能と仕事を掛け合わせた新しい取り組みの一例を紹介したいと思います。

人工知能が仕事を「奪う」とはどういう意味か?

そもそも、人工知能によって人間の仕事が「奪われる」とはどういう状況でしょうか?筆者の考えでは、「奪われる」という言葉には、①労働を代替される、②その結果失業する(再就職できない)という2つの意味が含まれているのではないかと思います。つまり、「奪われる」とは、人工知能の登場がもたらす失業への恐怖心を表している表現だと考えられます。

例えば、Google Carなどの自動運転車(※2)による運転手の失業リスクが、その典型でしょう。自動運転車には、高度な人工知能の技術がふんだんに用いられています。現在は、まだ事故発生のリスクが十分にありますが(※3)、今後データが蓄積されていくことで、人間が運転するよりもはるかに安全に人を運んでくれるようになるでしょう。しかも、人工知能には、メンテナンス等の一部費用を除けば、人件費がほとんどかかりません。人々は、今までよりも安全に、もしかすると快適に、そしてはるかに安い費用で、長距離の移動ができるようになるのです。

これは、多くの人の目には、自分の生活を豊かにする、ありがたい出来事に映ることでしょう。しかし、その一方で、「運転技術」を商売道具としている人にとってみれば、どうでしょうか。タクシー会社やバス会社は、事故のリスクが低く、人件費もかからない自動運転車を喜んで採用し始めます。

そうすれば、タクシーやバスの運転手達は、職を追われる可能性が大いに高まります。他の技能をもっている人であれば、まだ転職をすれば良いかもしれません。しかし、これまで「この道一本」で働いてきた、例えば50歳前後の運転手のことを考えると、転職はかなり厳しいと言わざるを得ません。まさに、人工知能によって仕事を「奪われる」結果となってしまうのです。

どういった仕事・職業が「奪われる」のか?

では、具体的に、どのような仕事や職業が、人工知能に取って代わられる可能性が高いのでしょうか?

このテーマに関して、非常にセンセーショナルで、注目を集めた(※4)論文があります。2013年9月にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が発表した「The Future of Employment」です。この論文では、「米国労働省が定めた702の職業のうち、自動化される可能性が高い仕事は47%ある」との未来予測がなされています。そこでは、会計士やコールセンターの案内係など、数字に置き換えることで自動化ができそうな職業だけでなく、バーテンダーなどの、いわゆるサービス・接客業にあたる職業も人工知能を搭載したロボットによって代替されうる、とされています。

また、日本でも、野村総合研究所が同様の研究を行い、日本国内の職業601について、「日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能等で代替可能に」なると発表しました。

【人工知能やロボット等による代替可能性が高い職業例】(抜粋)
医療事務員 スーパー店員
駅務員 清涼飲料ルートセールス員
カメラ組立工 測量士
寄宿舎・寮・マンション管理人 宝くじ販売人
給食調理人 タクシー運転者
銀行窓口係 駐車場管理人
金属プレス工 データ入力係
警備員 日用品修理ショップ店員
検針員 ビル清掃員
こん包工 保険事務員
産業廃棄物収集運搬作業員 ホテル客室係
新聞配達員

上記の職業例を見れば明らかな通り、実に多種多様な職種が、人工知能に代替されうる可能性をもっていることがわかります。しかも、アメリカと日本は、文化も経済も大きく異なる2国であるにも関わらず、類似した分析結果が得られているのです。

もちろん、これらは一つの分析手法を用いた研究に過ぎないため、結果をそのまま鵜呑みにすることは非常に危険ですし、「スーパーの店員は人工知能に代替されるから早く他の職業を見つけなければ」と考えるのは早計でしょう。とは言え、人工知能技術が、人間の仕事を代替できる能力を秘めていることは間違いのない事実であり、実際に、例えば人材不足が続くコールセンターでは、現在既に、人工知能の活用が活発に行われています。

 

人工知能による労働の代替は、本当に悪なのか?$用語$のデメリットとは?

では、今見たような仕事の代替は、本当に人々に恐怖をもたらす出来事なのでしょうか?つまり、半分近くの職業が自動化されることで、人口の半分が職を失い、露頭に迷ってしまうのでしょうか?

この問いに対して、直感的に答えるのであれば、恐らく答えは「Yes」でしょう。しかし、少し見方を変えてみると、あながち「Yes」とは言えないかも知れない、という立場に立つこともできます。

例えば、人工知能技術を用いた労働の自動化という出来事全体を一つのイノベーションとして捉え、歴史の大きな流れの中に、現在を位置づけてみましょう。人間の労働の代替が今に始まったことではなく、長い目で見ればそんなに悪いことでもなさそうだと、ぼんやりと見えてくるはずです。

まず、イノベーションとは、「社会全体に不可逆な(=元には戻れない)変化を与えるような技術革新、あるいはその技術を用いた製品・サービス」のことです(※5)。近年のディープラーニング技術の急速な発展であったり、それを可能にしたCPU(※6)あるいはGPU(※7)の進化によって、人工知能は社会を大きく変革するような高度な知性を手に入れつつあります。最近の出来事で言えば、2017年5月に、Google DeepMind社の開発したAlphaGoが、囲碁の世界トップ棋士である柯潔(かけつ)に3局全勝したことは、記憶に新しいと思います。人工知能やそれを搭載したロボットは、今後も様々な分野に進出し、時にはその分野で人間を超える能力を獲得することを通じて、凄まじいスピードで世の中を変化させていくでしょう。そうした意味で、人工知能は次世代のイノベーションの一つと捉えることができます。

では、人工知能技術の発展というイノベーションによって、人間の労働の代替が起こることは、どのように評価できるでしょうか?ヒントの一つとして、イノベーションが「創造的破壊」と呼ばれることがあげられます。「創造的破壊」とは、簡単に言えば、「効率の良い新しい物事が生まれることによって、効率の悪い古い物事が廃れていく」ことで、このサイクルを繰り返しながら経済は発展していく、という考え方に基いています。要は、「世の中が豊かになるには、人間と同じように、新陳代謝が必要だよね」ということです。

人間の歴史は、イノベーションの歴史です。イノベーションが起こる度に、便利で新しい何かが生まれ、古くて不要なものは消えていきます。例えば、鉄道が発明されたことによって、馬車は不要になり、馬車の運転手は仕事を失いました。Eメールが登場したことで、手紙や葉書はめったに使われなくなりました。ワープロ(※8)の生産者達は、パソコンの爆発的人気をどんな気持ちで眺めていたでしょうか。こうした出来事の一つ一つを切り取ってみれば、確かに彼ら彼女らは、文字通り仕事を「奪われて」しまったでしょう。そして、中には、その出来事によって苦しい生活を余儀なくされた人もいるはずです。

それでは、今世の中には失業者ばかりが溢れかえっているでしょうか?もし、技術の進歩が人々の生活を「奪い」、その人達の職が永遠と失われてしまうのだとすれば、今頃、多くの人は何の職にも就けていないはずです。ですが、事実は違います。実際には、イノベーションが古い仕事を駆逐すると同時に、また新たな仕事が生まれてくるのです(※9)。

 

労働の代替を楽しみにする人々

「人々 フリーイラスト」の画像検索結果

こうした理論を知ってか知らずか、実は、人工知能による労働の代替を好意的に捉えている人も数少なくありません。実際、NTTデータ経営研究所が2017年7月に行った調査(※10)によると

「システムやAIなど人間の仕事の代替について」の設問で、「非常に楽しみであり効果に期待している」「期待をもっている」などの楽観的な回答が59.4%、「強い抵抗を感じる」「少し抵抗を感じる」など悲観的な回答が40.6%、という結果となりました。

NTTデータ経営研究所調査資料「AI/ロボットによる”業務代替”に対する意識調査」より抜粋

また、同調査によると、人工知能による労働の代替に対してポジティブな反応を示している人は、「人間が行うべき仕事に集中できるようになる」「労働力人口減少を補うことができる」といった理由で、未来を楽観的に捉えているようです。

 

人間は人工知能とどう付き合っていくべきか?

以上で見てきたように、「人工知能の登場による仕事の代替」というテーマには、「人工知能によって多くの人の仕事が奪われてしまう」という悲観的な見方と、「効率の悪い仕事を人工知能が代替してくれることで、人間が本来行うべき新しい仕事に集中できるようになる」といった楽観的な見方の両方が存在しています。そして、現時点で、この論争に終止符を打つことは難しいでしょう。

ですが、間違いなく言えることは、人工知能は驚くべきスピードで進化を続けていて、今後、社会には数多くの変化が起きていく、ということです。では、この事実を前に、私たちはどのように振る舞えばよいのでしょうか?大きなリスクとリターンをはらんだ新技術と、どのように付き合っていくべきなのでしょうか?

世界には、この答えのない問いに対して、ただ未来を待つのではなく、自らの力で確かな道標を与えるべく、新たな挑戦を行っている人々がいます。例えば、日本初のAIスタートアップであるscouty(2020年7月時点LAPRAS株式会社

も、そうした挑戦者の一つです。同社は、現在の労働市場において、マッチング精度の低さに起因したミスマッチをなくすべく、人工知能の技術を用いた新しい転職活動のカタチを社会に提案しています。これは、人工知能によって「仕事が奪われる」でも「代わりにやってくれる」でもなく、「AI時代だからこそ見つけられる、より自分に合った仕事をする」という、より積極的な姿勢を人々にもたらしてくれるようにも見えます。

新しい技術が生まれること、進化していくこと、それによって社会に大きな変化が起こること。scoutyのような挑戦者たちの存在は、単なる受け身の悲観論でも楽観論でもない、進歩との新しい付き合い方を私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

編集部の考察

思想, アイデア, 技術革新, 想像力, インスピレーション, 電球

 -郵便馬車をいくら連続的につなげても、それによって決して鉄道をうることはできないだろう-

「イノベーション」という言葉の生みの親である経済学者のヨーゼフ・A・シュンペーターは、技術の非連続な進歩と社会の不可逆な変化を捉えて、このように述べました(※11)。人工知能の進歩は、もしかすると、シュンペーターの発言以上の変革を私達の生活にもたらすかもしれません。特に、シンギュラリティ(※12)の議論にも見られるような、人工知能がいつか人間を超越する存在になるかも知れないという予測は、多くの人間に強い不安や恐怖心を抱かせるものでしょう。

正直なところ、正解は全くわかりません。正解なんてものがあるのかさえ、わかりません。でも、だからこそ、投げやりになったり、過度に反応するのではなく、AI時代の「正義」はどこにあるのかを、今を生きている私達が考えていくべきではないでしょうか。

AILearn編集部としては、AIと敵対するのでも、主従になるのでもなく、共生していくことができれば、と考えています。そんな私達の考えを見事に代弁してくれている、Google DeepMind社のデミス・ハサビスCEO(Alpha Goの開発者)の言葉を引用して、本稿を終えたいと思います。

 -柯潔が勝とうとAlphaGoが勝とうと、それは人間の勝利である-

 

補足・注釈

※1:「楽観論」とは言っても、「まあなんとかなるでしょう」といった消極的な議論よりは、「リスクがあるからこそ、人工知能とうまく付き合う方法を考えましょう」というような、積極的な議論が多いことに留意したい。

※2:人間が運転操作を行わなくとも自動で走行できる自動車のこと。日本政府や米国運輸省道路交通安全局では、「自動」のレベルを低い方から順に0から5の6段階に分けている。本文で言う「自動運転」は、レベル5、すなわち完全自動運転を想定している。

※3:2016年5月7日、アメリカのフロリダ州で、運転支援機能が搭載された「テスラ・モデルS」が18輪トレーラーと衝突したことで、テスラの運転手が死亡する事故が発生した。

※4:本稿の執筆時点(2017年11月5日)で、被引用数が1403

※5:イノベーションの定義は未だに明確化されておらず、論者や議論の背景に依存して、様々な定義がなされている。ここでは、技術の進歩と社会変化に注目し、筆者が定義付けを行った。

※6:Central Processing Unit、中央処理装置。かなり乱暴に一言で言えば、コンピューターの脳にあたる部分。

※7:Graphics Processing Unit。リアルタイム画像処理に特化した演算装置ないしプロセッサのこと。

※8:ワードプロセッサの略。コンピュータで文章を入力、編集、印刷できるシステムのこと。パソコンの一般家庭への普及に伴い、徐々に姿を消していった。

※9:例えば、人工知能によって代替される可能性が非常に高いとされる「会計士」についても、無料会計ソフト等の代替製品が数多く出回るようになったにも関わらず、むしろ会計士の人口は増加しています。これは、社会や技術の変化に応じて仕事の内容を柔軟に変えることで、職を得続けることが可能なことを示唆しています。

※10:首都圏や都市部で働くオフィスワーカー約1000人をヒアリング対象とした、AI/ロボットによる業務自動化に対する意識調査

※11:シュムペーター『経済発展の理論(上)』(岩波文庫)

※12:技術的特異点。人工知能が人間の認知能力の限界を超える瞬間。また、限界を超えることで、人類の進化のスピードが無限大に増大したかのように見えること。ムーアの法則に基づき、2045年にシンギュラリティを迎えるとする説が通俗的である。

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